散歩中に空に向かって立つ大きな木を見つけた。枝が四方にのびのびと茂っていた。ふとICF(International Classification of Functioning ,Disability and Health:国際生活機能分類)を思い出した。
40代で多系統萎縮症の夫は、血圧のコントロールが出来ない。ベットの頭部を上げただけで、度々失神発作を起した。その度に同じ歳の妻は「夫が死んでしまうかも知れない。」とパニック発作に襲われた。夫は少し時間を置けば回復するが、妻は抗不安薬と屯用薬を手放せなかった。家にゴキブリが出た時も、不安が大きくてご近所に助けを求めた。
担当者会議は、共通理解のためにICFの考えに沿って進められた。項目の一つに、寝たきり(個人因子)というネガティブな状態ではあるが、妻の熟練した介護(環境因子)というポジティブな資源によって、本人の望む生活は維持されていると書いた。
妻は、この表を見て「折角だから、きれいな奥さんって書いて欲しかったな。」と言って喜んだ。主治医には、「折角ここまでやったのだからもったいないよ。」と文中のスペルの誤りを指摘された。
ご主人は「妻とは、職場で知り合った恋愛結婚。」と、はにかんんで話された。
私は、どこまでも高くのびる木から、ご夫婦の幸せそうな姿を思い出していた。
