ビルケナウからのメッセージ

 強制収容所を見学した時は、戦争はすでに終わっていた。それにも関わらず、わたしは恐怖に襲われていた。

 当時の私は、足元がゆらぎ不穏な世界を生きて居た。ガス室に閉じ込められてしまい、天井から殺人ガスが降りそそぐ光景。その情況に同化していた。

 しかし、ガス室はすでに破壊されていた。限界状況を耐え抜いた人は、強制収容所で死肉を貪るハイエナの姿を見ていた。

 この負の世界遺産には、世界中から見学者が大勢集まっていた。案内者にはポーランドの国家資格が必要であった。「何度も訪れる内に、負の遺産の深い意味を知った日本人の私は、ポーランドの国家資格を取得した。」と案内人は、説明してくれた。

 

 信号待ちをしながら、私は急に膝が折れ泣き崩れてしまった。どんなに辛い過去であっても真実を受け入れた時、人は謙虚になれるのかも知れない。

 これからが、本当の自分に出合う旅の始まりになりそうだ。