影法師

 事務所からの帰り道。体力の低下した自分が力なく思えて仕方がない。夏バテ防止にビタミンを補給して置かなければと思い、スーパーに寄った。あちこち見回しても食べたいものも特にない。仕方がないので、プロテイン5gのヨーグルト味ゼリーをかごに入れる。マグロのお刺身なら食べられるかも知れない、とまたかごに入れた。

 帰り道、西日を受けた身体は、3メートルの影を伸ばしていた。影を眺めていて、上京する6年前の日々を思った。

 上京すれば何とかなる。そんな思いをダイエットに託していた。10Kg体重を減らす事が出来れば、きっと願いが叶うだろう。

 毎夜、競技場の薄暗い街灯の下をぐるぐると走っていた。走りながら街頭に照らされるおかっぱ髪の陰にエールを送った。あなたの望みはきっと叶えて見せる。一人で頑張る事しか知らない。

 今は、長く伸びた髪を束ねている。その様子は競技場を走ってた当時よりかなり変化している。でもまだ望みは叶って居ない。

 空を見上げると濃い水色の空に、ちぎれた白い雲の動きが速い。気づくと神社の大木のあたりから「ミーン、ミーン。」と、セミの鳴く声が聞こえる。

 また一つ角を曲がると、お寺の境内が見えて来た。人が居ない静かなお寺。自宅に戻るとやはり静かな室内。両隣はお寺だから。

 時々土鳩の鳴き声が聞こえる。それで、大雪山に居る様な錯覚をしてしまう。なんて静かなんだろうか。

 

  廃仏毀釈

 かれこれするうちに正午近くとなったが、そのまま昼食もさせず、一里余りも引っ張って、夕方、福昌寺という廃寺へ連れ込んだ。どの藩も遠島された切支丹も、ほとんど廃寺に置かれて居る。どうしてそんなに廃寺が多かったか、と怪しまれる程であるが、それこそ維新当時に行われし廃仏毀釈の結果に他ならぬ。(旅の話ー浦上四番崩れより)