折かけの鶴

 

 数年前の事。友人が「高齢のシスターが作ったのよ。」と言って、聖母子像と共に小さな鶴を10羽持たせてくれた。

 私は、この小さな折り鶴を大切に持っていた。

 小さな鶴を折りながら、ご高齢のシスターは何を考えただろうか?

 この鶴に何かしらの思いが込められているに違いないと思った。

 

 その頃、

 食後の祈りの言葉。

「全ての人のしあわせのために」

 私は、泣きながら「祈って下さい。」と言語障害で、話せないない人たちに日々語りかけていた。

 なぜだか、私の思いは、その方たちには伝わっていると思えた。

 その頃にいただいた鶴だ。

 

私は、

今回、思いが込められたこの鶴を三羽だけ、お借りしすることにした。

 

そしてまた泣きながら、

祈りが通じるように願いを込めながら、粘土を丸めたオリジナルのビーズを作った。鶴を3羽そのネックレスに繋げて仕立てた。

 この願いは、叶うはずだ。

 

 

 朝から、書き起こさなければならない文章に取り組むが、午後は疲れて集中できない。

 

 今日は、一日中強い雨が降りしきる。そんな中、友人から「雨だけどお茶でもしない?」と誘いがあった。

 あー助かった。気分転換をしようと思う。さっそくつくりたてのネックレスを身につけ、大きな傘をさしながら坂道を下った。

 願い事は、まだ折りかけのままだ。

 

 

場所

 友人との絵本や小説の読み合わせは、もう2年程続いている。

「今までに長編小説をずいぶん読んで来たね。あの青年医師の癌の闘病記なんかこころに残ってるね。」

 お互いに一週間の出来事を伝え合い、心の湧きあがる思いも話し合った。

 そこに豊かな時間があった。

 振り返るとそこに居場所があり、特別な時間を共有していた。

 

 友人が好きなのは、自然をテーマとした著作が多い。

 生命科学者がお孫さんに、書いた文章は、深い愛情にあふれている。

 読後、「弱い人に手を差し伸べられるやさしい人の作る社会にならないと、人類は絶滅危惧種になっちゃうね。」と彼女は、言う。

 自由意思で選び取って行くなら、人を幸せにする場所を選んで行きたい。と私も思う。

 

星座

 自治会の総会が、3年ぶりに振りに開かれた。

 

 会場に着くと、既に椅子も並べられていて開催時間までずいぶん時間があった。

 なので、首にかけていたネックレスをみんなに見てもらった。

 一緒にストレッチのサロンに通う88歳の女性が細かいビーズでネックレスを作っている。その作品を時々いただいていた。それで私も触発されてしまったのだ。

 もうあまり使わない物を一旦解体して、適当に繋ぎ合わせた。

 テーマは「夜の星」と説明した。

 「星座みたいね。」

 「そうなの。海の感じにもなってるかな。」

 「何をつかったの?」

  「100キンにある釣り糸。これが楽しくて、考えないでつなげてたらこうなったの。」

 「留め金がないから簡単ね。」

 「こんな簡単な材料でサロンをしてみたらどうかな。」

 「簡単ていうけど、年寄りには、大変だよ。選ぶのだけでも教えてもらわなきゃ。初めから全部を用意して置いて、2時間で出来上がるのじゃなければだめよ。」

 という話をしている内に時間が来た。

 

  参加した方々は、だいたい80歳前後だった。

 すっと軽やかに立ち上がって意見を述べる女性は、93歳という。

 その意気込みに、またしても“負けた”と思う。

 「18歳から、58年ここに住んで居ます!」という人の言葉が誇らく響いた。

 

 私は、まだ7年目。

 そして、私が住むマンションのオーナーは10年目だそうだ。

 

 みんなこの場所が好きなのだという事がよく伝わって来る。

 

 会長さんは、急に引っ越す事になった。

 でもやっぱり、この場所が気に入っているようだ。

 お祭りの引継ぎが出来ていないからパートタイマー役員で手伝うそうだ。

 

 今年は、4年ぶりの例大祭

 みんなの意気込みが伝わって来る。

 

 総会が終わりおみやげのお弁当を渡すと、大家さんは、

「頑張ってね。」と言う。

しかし私は、ただ居るだけ頑張る事がほとんどないから、

「ありがとうございました。」と返した。

 

 楽しそうな雰囲気が好きだ。

 そこに居るだけで、生き甲斐がある。

 

 楽しい思い出の星座が一つに繋がりますように。

 

 

 

アディショナル‐タイム

 昨日は、日差しが強くやや汗ばむ日となった。  

 夕方、町内の防犯パトロールの時間。涼しくなり風が出ていた。警察OBを含めて、総勢10人程が集まった。それぞれ拡声器や防犯灯、拍子木を携えて一時間程巡回する。

拡声器で「還付金詐欺に注意して下さい。暗証番号は絶対教えないでください。」と言った後に拍子木を“カチカチ”と鳴らしながら歩く。町会長が、先頭を歩きながら「拡声器の後の拍子木のタイミングが少し早い。もう年なのでゆっくり一呼吸置いてください。〇〇歳なので、、」と笑いながら言う。仕事疲れが見て取れる拍子木係は、「呼吸が合わなかったね。」と笑みを浮かべて、真剣な表情に変わり慎重にタイミングを計る。

狭い路地に車が通る度にOBが「はーい。車が通ります。」と皆に声をかける。また車かなと思ったら、上空を飛ぶ飛行機の騒音だった。最近は、車のエンジン音の方が静かだと気づく。

 寄り合うとすぐにおしゃべりが始まるから、移動に時間はがかかる。誰かが選挙ポスターの前で、これは何だろうか?と疑問が湧く様な個性的なものを見つけると、それぞれ思いが飛び交う。「何だろうね?わかんないねぇー。」ポスターは、皆の視線を集めるが、何を訴えたいのか分からない。「この人芸能人の○○に似てない?」「ああ、ホントよく似てる。」私も選挙ポスターをこんなにゆっくりと眺めることはなかったと思う。

 ゆっくりし過ぎて、誰かが「もう一時間たっちゃったよ!」と声を張り上げる。巡回中だったと気づき、また隣の人とよもやま話をしながら歩く。

 巡回は、たっぷりと一時間かかった。

 自宅までの帰り道、薄曇りの上空には、3度目の飛行機の騒音が聞こえていた。

      

口伝

 町会で4年振りに開催されるお祭りの打ち合わせがあった。

 

 ところが四年前の資料は、残されていない。

 町会は70年の歴史があるが、4年前から、やっと資料を残すようになったばかりだった。それまでは、口伝で体験しながら伝えて来たから、事前資料など必要がなかったらしい。

 

 コロナ感染予防のために集会は次々と中止され続けた。3年の間に、元気だた方々が、ほとんどリタイヤしていた。,

 そんな状況でも、どこからか人を集めてお祭りを再開させようと、何度も話し合いが

繰り返されて行く。

 御神輿の担ぎ手が少なくて、力のありそうな外国からの観光客を見つけて、窮状を凌いだことがあった。というエピソードも聞かれた。

 私も、郊外の親類にも来てもらおうかな。

 自由な発想が、町内会を盛り上げていく。 

流れ

 夕方、雨が止んだようだったので買い物に行こうとしたが、夕立に見舞われた。食料も底をつきかけていたので、大きな傘を持って出かけた。

 自治会の総会レジメを入れていた袋をそのまま持って出てしまったから、18カ所巡りのおまけ付きだった。

 さっさと済ませてしまおうと思って、あちこちを回る。配って居ると隣のお寺の住職が、ちょうど玄関まで出て来た所だった。いつも挨拶をしても声が小さくて笑顔を見た事も無く、ややとっつきにくい人だと思っていた。しかし今日は、雨の中に現れた私におどろいたのか丁重な挨拶を返してくれた。へぇーこんな小さなお年寄りだったんだ。と思う。

 袋が空になって、食料を買っての帰り道。最後に坂道を登る。結構な傾斜だから息が切れる。当たりは、明るくなって来たが、そこに小川が流れている。流れを避けて、坂の上を見上げると西の空の雲間に明るい日の光が差していた。

 

 夜には、友人たちとのセッションだった。「明るくなってきた。」と言われた。人生の夕方にも、明かりが差しかけた。