旅の途中

 疲れがたまり、眠れない日々を過ごしていた。

 それで、

 まだ涼しい早朝に出かけるようにした。

 広い聖堂の中は涼しく、静かに過ごしたい人が集まっていた。

 2時間漂い続けたメディテーションが終わりに近づいた。

 

 その時パイプオルガンから、アニュス・ディが流れてきた。

 

 メディテーションの中で、私はドラマを観ているように自分の旅を振り返って最終章まで観ていた。

 

 外に出ると、芝生のシロツメクサに蜂が蜜を吸っている姿が愛おしく見えた。

 時々強い風が吹き抜けて行くのが心地良かった。

 

 

 夜のひと時、家族揃ってのロザリオを唱えられた。

 命があり、喜びがあり、希望があることに感謝する時間に恵まれた一日にとなった。

すべての人のしあわせを願いながら

 今日は自治会の活動で、フラダンスの日だった。

 一人新しい方が来られた。

「87才です。仕事は家族の洗濯物係をしてます。歌が好きでコーラスに行っています。」と、明るく元気な挨拶をされた。

 教えてくれる先生も86歳、他の方も70〜80代だから、お手本のような人々だ。

 もう2年以上も続けているが私は、衰える事を知らない人々の中に居る。

 一緒に踊り、食べて、語り合う仲間内では、私は若年層となっている。

 体をほぐして、最後に皆んなで『パーリーシェル』を踊った。

「みなさんが元気だと、私は嬉しい。」と思わず言葉が漏れた。

 

 

 以前の勤め先では、胃内にチューブで栄養を送る仕事をしていた。注入前後には、その方の習慣の祈りをさせていただいた。

『すべてのひとのしあわせのために」

習慣のしあわせの形は、私がいただいたものだった。

 そんなことを思い出して、胸が詰まり涙がにじんだが、私の思いを知る人はいない。

 

 

押し風

 聖堂を出て、歩き始めると風が吹いて来た。

 土手に上がり声のする方向を眺めると、凹地に広がるグラウンドで、若者たちが全力で球技に没頭している。

 私は観ているだけで、息が切れそうだ。

 歩き続けて右に曲がると、全景が広がって見えた。

 藻が生い繁る壕には、ボートに立ち上がって釣り糸を垂れている人が居る。

 私は、また観ているだけで、バランスを崩しそうだ。

 坂道を降ると、強い風が吹いて来た。

 いいから前へ、進め。と背中を押された。

 

 

奪われても

 戦争はすべてを奪う。

 夫を、子を、家を、財産を、職を、健康をーー

  すべてを奪われても、なお生きてゆかねばならぬ人は、いま世界の中に多い。 

 私の妹、英子もまたその一人である。

 英子は何ももっていない。慈善病院のベットに引き揚げの身一つを横たえ、シベリアに連れてかれたきり分からぬ夫の便りを待っている。

 だか、英子の額には、いつも安らかな微笑みがある。戦争によってすべてを奪われても、なお微笑だけは奪われなかった。

 この微笑こそは、魂の平安から吹き出た小さな花である。

 永井隆

 

 

  私は、まだ

 すべてを奪われたわけではない。 

振り返り

 たくさん見送った人々がいた。ということは、自分もそれなりの年齢に達していると言う事だ。

 「たくさん話していい思い出になったよ。」そう言って旅立った人が居た。

 

 

 そこで、自分との思い出を振り返ってみた。

 私は、どんなに大変なことでも頑張ってやってしまうだろうな。そんな風に自分を見ていた。いつも必死で、やり抜くしか知らない人だった。

 精一杯生きた人だった。

 そんな風に自分を見送ってみた。

 

 昨日の講演会では、講師が当たり前のことをゆっくりと話すので眠くなった。休憩時間にお隣に座っていた年配の女性が声をかけてくれた。その方もゆっくりと穏やかな人だった。 

 話しているうち、出身地や最近思う事など語り合った。ユーチューブでご本人の経歴を見ることが出来ると教えて下さった。ついには、名刺交換をして、またお会いすることになった。

 彼女は、東シナ海に浮かぶ小さな島で生まれたとのこと。動画には果てしなく続く空と穏やかな海の遠くの方に島が見えた。

 こういう環境で育つと空と、海の雰囲気をそのまま生きる人になるのかも知れない。

 

 私は、自分を見送り新しい出会に期待している。

 

 そして昔、同じ海を私も見ていた。と気づいた。

新月

 「20日新月までは解毒・浄化の期間だから、洗濯や染み抜きなどしんどい仕事はやりどきなのよ。」

 待ち合わせ時間に10分遅れた私への友人のアドバイス

 

 朝6時に起床したが、待ちかねていた時が来たかのように、やるべきことが押し寄せている。

 メールの内容を見て混乱していた。どれから先に手を付けたらいいのか分からない。 

 特に新しいことは、やる前から『途方に暮れる』という過程を通る。

 

 友人によると、月が太っている時は、交通事故などが多い。

 新月までの痩せている時は、片づけ物がはかどるのだそうだ。

 

 考えて見たら、私は月など見上げる余裕も無かった。

 友人のことばで私は、やっと自分の状況を掴めた。

 今日は、締め切りのシナリオの課題を一つだけ片づけてあとは、のんびりする事にししよう。

 そう思ったら、上空に飛び去る飛行機の音が聞こえ、鳥がさえずる声が聞こえ出した。

 

 

prolonged exposure therapy

「偉い人は、何でも赦されるんだな。」

 そんな言葉が、数年前の私のボォーっとした頭に浮かんでいた。

 

 『アドボケイト』

 

 昔、それが私の仕事だったはずだった。

 

 

 その力を、この世でだった一人しか居ないかけがえのない人のために、使うかな。

 

 今、自分のために、プライドを取り戻す為に使い、精一杯生きるだけでいい。

 大切にしていたものが何だったかな?

 

 昔に聞いた「YELL」という歌を聞きながら、今は匍匐前進することに決めた。