いのち

 昨年暮れのことだった。夜に帰宅すると、エントランス前の土のむき出しの所で、しゃがんでいる中年の女性が居た。体調が悪いのだろうか?と気になって声をかけてしまった。見ると彼女は、土の上に横たえた犬のお腹をなぜていた。「どうしましたか?」尋ねると女性は、「もうすぐ死ぬんです。」と答える。びっくりした私は、「病院には、行かないんですか?」と聞いた。すると女性は、「もう寿命なの。14年一緒にいてくれた。」そう語った。私は、「大切なワンちゃん、なのでしょうに。」と、返した。そして心の中で(一人で見送るのは辛いのだろうか?何だか傍に付き添って居たい)と思った。しかし、暗い中で土の上に横たえたペットのお腹をなぜている女性の姿は、少し怖い感じがした。

 数日前、朝にゴミ捨に行くと女性が居た。見ると土の上に裸足になり、ゴミの整理をしていた。私は、またびっくりした。そして思わず「はだしですか?」と声をかけた。すると「グラウンディング、電磁波をこれで土に流すの。」と言う。私は、「聞いたことがあります。私も公園でやってみようかな。」と答えた。人通りの多いところでは無理だ。

 しばらく前から、エントランスのメールボックスに心理研究の文字があるのに気付いていた。そして今日、またあの女性が土の上に沢山の鉢植えを並べて居た。声をかけた。「あのー心理研究所とありますが、もしかしてその方ですか?」と聞くと女性は、「そうですよ。明日で引っ越すの。」と答えられた。ワンちゃんの時の女性と繋がった。女性は、命をいつくしむカウンセラーだったのだ。