折りかけの鶴

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 数年前、夢の中で誰かに、お菓子の空き箱のを見せられました。その中には折りかけの鶴が入っていました。

 この途中まで折りかけた鶴の続きを、私はどのように折って行くのでしょうか?

調べらたら色んな折り方があることが分かりました。でも自分なりの方法で良いようです。

 私は数年前に北国の友人を訪ねた時を思い出しました。夕方にサンクチュアリへ行くと餌場に居る鶴を見られると言われて出かけました。

 友人とナビを頼りに出かけましたが、目的地になかなかたどり着けず、あたりの景色にぽつぽつと明かりが点灯し始めました。

 少しすると、迷い込んだ畑の中にゆらゆらと揺れている白い一軍を見つけました。車から降りて近寄ると、群れは一斉に飛び立ちました。

 鶴は、大きな羽を広げて、2人の頭上すれすれを通り過ぎて行きます。群れは夕日に向かって「アーアーアー!」と鳴きながらどこまでも続く空を飛んで行きました。

 

 (続き)

 鶴の夢を見たあと、私はどうして“鶴”なのかと考えました。そして『築町食堂』を思い出しました。

 そこは、古い町並みの中に、電車とバスと人々がごった返しているような所にありました。店の外の看板に大きく「築町食堂」と書かれていて、どんなところかなと思っていました。

 ある時、その店に行くと食べたいおかずを自分でチョイスできるようになっており、若い頃に勤めていた職場のようなアットホームな雰囲気でした。

 お盆に料理を取り、席に着くと隣にいた高齢の女性が私に声をかけました。「初めて来たの?」「はいそうです。」すると彼女は、湯飲みとポットの場所を丁寧に教えてくれました。

 この女性は、世話好きなのかと思いました。誰にでも声をかけていたからです。しかし、よく見ると店員さんも、常連のお客さんを見ると「おかえりなさ~い。」と声をかけています。そしてお客さんと仲の良い家族の様に、いつまでも楽しそうに話しています。

 お客さんの帰り際には「いってらっしゃ~い。」とまた送り出していました。

 

 お隣の高齢女性は、お話が好きでご自分の事を話して下さいました。

 家族が亡くなり一人となり、山の上から時々バスでここへ来ているのだそうです。いつも長い時間をここでで過ごしているのだそうです。

 食事が終わると、小さな折り紙を取り出して折り始めました。そして、私が帰る時には「またお会いしましょうね。」と声をかけて下さいました。

 

 私はこの不思議な空間が気になり、もう一度この女性に会いたくなりました。食堂に行き彼女を見つけて、隣の席に座りました。その時も女性は折り紙を取り出しました。そして鶴を折っていました。たくさん折って原爆資料館という所へ寄付するのだそうです。そして、とても喜んで受け取ってくれるのが嬉しいのだと話して下さいました。

 

 私が夢を見たのは、この女性と関係があるのかも知れない。と思いました。それで、その土地を離れてから数年たっていましたが、時間を取ってそこへ行ってみました。

築町食堂はそこに在りましたが、あの高齢女性に再会することは出来ませんでした。

 

 夢の中に出て来た『折かけの鶴』。

 それはぼっ~とした薄暗がりの中から現れた小柄な初老の男性が、そっと箱を傾けて私に示したものです。

 

 その意味は、しばらくして知る事になりました。

 夢を見たのは、私がちょうど精神医学講座を受けている時でした。

 言葉にならない無意識の思いは、講師から伝わる平和の折り鶴へと繋がっていたのです。