パラレルチャート

 私は、職場でイジメにあっていた。その部署の人達は、優秀な人たちと見られていた。だから、なぜなのか分からなかったし、信じられなかった。

 また驚いたのは、あと僅かしか生きられない患者さんにその事が観察されていた事だった。「しかし、あなたはよく働く人だ。あなたに何があったの?」 
 患者さんは、身体中にチューブを入れられていた。瞑った目を開けて安心するように促したが、「怖い!手を握って居て!」と叫ぶ様に言い、医師が行う医療行為の間は、恐怖で目を開けられなかった。
 その握られた手の感触を思い出す。
 彼は仕事上で出会った人々の不幸な身の上を話しては、感情があふれて泣いた。そして「たくさん話して、いい思い出になったよありがとう。」と言って旅立たれた。
  最後の夜、妻は一緒に居たのに就寝中、夫が息を引き取る時を気づかなかった。と自責にかられている様子だった。
 「どんなご主人でしたか?話していただければ、ご主人も一緒に聞いておられると思います。」と伝えた。
 妻は私と一緒に最後のケアをしながら、知り合ったきっかけや、客船で世界旅行に行った話を楽しそうに聞かせてくれた。
 「奥さんの話を聞いて、きっとご主人もいい人生だったと喜んでおられるますよ。大好きな奥さんと最後まで一緒に居られたんですから。」
 「そうかな。自分を責める事はないかな。」と妻。
 「そうですよ。ご主人は、良く人の事を見ている方でした。私も助けられました。」
 「ああそう言ってもらえたら嬉しい。」
 お子さんは居なかったが、愛情のあふれているご夫婦だったのだと教えて頂いた。
 
 振り返ると、私はいじめに耐え抜く人生だった。
「何があったの?」と聞かれて、
「どうして私がこんな目に会わなければいけないのかと思う事があるんです。」と伝え  ると患者さんは、
「みんな同じなんだよ。」と優しい言葉を返してくれた。
 全てが思い出になる日が、自分にも迫って来ている。
 
 
(一年後の記載)
なぜなのだろうか?
今の私にもしっかりと残る強く握られた手の感触。
何か、メッセージだろうか?
今でも強く私の心を揺り動かすものは、何だろうか?
彼の苦悩と、私の苦悩がリンクしている。
当時、表現出来なかった苦しみ。
その苦しみで繋がり合うこころ。そこから力を得ている。
今も生きていて、わたしのこころに問いかけて来る。
「体に気をつけてね。良い思い出になったよ。」
強い思いは、時を越えて私の心を支え揺り動かす。
真実の力、つ上がり合うこころ、
今、霊長類として生まれ、かけがえのかけがえのない物を得られた喜びをかみしめている。
私は、自分にしかわからない宝のような時間を秘かに過ごしている。。