友人を誘って、迎賓館見学の申し込みをしていた。当日の天気は良かったが、あまりの暑さに、誘ったことを少し申し訳なく思った。
案内の説明を聞き、歩くたびにザクザクと鳴る小砂利を踏みながら、池のほとりまで来た。
120匹いるという錦鯉も暑さで狭い木陰に肩を寄せている。
まれに、日向を泳いでいるのは、黄色い鯉だった。大丈夫なのかな。
「ここの鯉はお行儀が良くて、餌をやると一列に並んで食べにくる。」という説明に皆笑った。
目を凝らすと、時々可愛らしい稚魚の群れが泳いでるのが見えた。小さいから、すぐ野生の鵜に食べられてしまうのだそうだ。
友人にこの池の鯉を見せたいと思ったのは、何故だろうかと振り返った。
長崎の川では、どこでも普通に錦鯉が沢山泳いでいる。魚たちが自由に泳ぐ姿が好きだった。
私は、川のほとりで、時には照り返しで日焼けしてしまう程、魚たちの生き生きとした姿を見ていた。
そして、一緒に静かに眺めてくれる人が欲しいと思っていた。
しかし、頼んだ人にはことごとく断られていた。ぼぉ~っとした私に付き合う余裕のある人など居なかった。
10年前には叶わなかった私の願いは、やっと叶ったのだとわかった。
そして黄色の鯉は、昔、川で一緒に遊んだ鯉にそっくりだった。
疲れて、そんなことを考えながら休憩室で瞑想していた。
友人は、私の回復を気長に待っていてくれた。
私は、神対応の友人に感謝して、行列の出来るカツレツ屋さんで、少し早い夕食を奢ることにした。